愛ではない。
けれどそばにいたい。
「流浪の月」概要
著者:凪良ゆう
母親に捨てられ天涯孤独になった小学生の更紗は伯母の家に預けられ、そこの息子からの嫌がらせに耐える日々を送っていた。
ある日、公園で文という大学生と出会った更紗は連れて行ってと頼む。
そこで更紗は安心して穏やかな日々を過ごします。
しかし、そのことにより文は誘拐犯となり逮捕される。
15年後、OLとなった更紗は亮という恋人と同棲をしていた。
しかし、偶然にも文と出会ってしまうのだった。
登場人物
家内更紗
25歳。10歳の時に文に誘拐されたという事になっている少女
15年後に文と再会する。今はファミレスでアルバイトしている
佐伯文
34歳。大学生の時に更紗と出会う
誘拐犯として逮捕され、今は苗字を変えて夜に開店している喫茶店をやっている
亮くん
29歳。更紗の恋人で更紗と同棲している
農家の息子で工作機械の営業をやっている
谷さん
文の恋人らしき女性
家内灯里
更紗の母親。夫が亡くなり更紗を捨てて男とどこかへ行ってしまう
安西佳菜子
更紗の同僚。バツイチで梨花という娘がいる。元夫はDV夫
テーマや要素
「流浪の月」は以下のような要素が含まれています。
- 誘拐事件
- 犯人と被害者
- ロリコン
- 不思議な関係性
- 天涯孤独
- DV問題
- 運命的な再会
このような要素が気になる方におススメの小説です。
読む人によって好き嫌いが分かれるだろうなと思います。
「流浪の月」ポイント
やはり二人の関係性は何と言えばいいのか、しっくりくる言葉がない
★文の環境と更紗の環境
子供の頃の更紗は両親がおり、幸せな日々を送っていました。
夕食にアイスクリームを食べたり自由な子育て方針のようです。
普段は作り置きやスーパーの総菜だけど、気が向くとお酒を飲みながらカレーを作る。
「我慢は嫌いなの」と子供に向かって言い放ち、夫と子供の前でキスをする。
更紗はこの幸せが永遠に続くと思っていましたが、しかし父親が亡くなり環境が一変。
母親が男を作って出て行ってしまいました。
更紗は伯母に預けられますが、そこには中学2年の従兄がおり、事あるごとに嫌がらせを受けます。
一方の佐伯文は大学生で一人暮らし。
白を基調にしたシンプルで綺麗に整えられたマンションです。
文は育児書とくらしのルールブックを愛読し、PTAの会長をやるような厳格な母親の元で育てられていたのでした。
ふたりの母親の性格は正反対。
文の母親からすれば、子供を置いて男と逃げるなどありえないし、更紗の母親は育児書なんて読まなかっただろうと想像できます。
全く正反対の育ち方をした二人が一緒に暮らすことになったのです。
★更紗と出会ってからの文の変化
更紗と暮らすことは文には驚きの連続でした。
(更紗と出会う前の文)
- 無表情
- 体に悪い物は一切食べない
- 朝食はいつも決まったメニュー
- 朝は必ず7時に起きる
- テレビはNHKしか見ない
- 料理の味付けは塩派
(更紗と出会ってからの文)
- ケチャップやソースやマスタードを使うようになる
- 夕食にアイスクリームを食べる
- アニメを見るようになる
- 朝寝坊をした
どれも割と当たり前のことのように思います。
ただ、長年規則正しい生活を強いられてきてそこから外れた事のない文にとってはとんでもない変化です。
そして文が変化していく事を更紗は喜びます。
ただ、内面的に外れてしまった部分は更紗ですら触ることはできなかったのです。
★同棲相手の亮くん
OLをやっていた時に知り合った同棲相手です。
最初の頃は優しくて素敵な彼氏のようでしたが、この亮くんにも問題がありました。
亮くんも更紗と同じく心に傷を持っていて母親に置いて行かれたのでした。
しかも更紗との話し合いもなく、亮くんは更紗と結婚して、結婚後は農業を継ぐために田舎に戻る予定を勝手に立てていたのです。
これはさすがに嫌ですよね・・・。
そして顔合わせの席で亮くんの従妹に亮くんにDVの癖があること、父親もDVなこと、それが原因で母親と別れた事を聞きます。
極めつけは亮くんは複雑な家庭で育った人を過去にも恋人に選んできたのだと告げられる。
その理由はいざって時に逃げる場所がない人だと自分は捨てられないからと聞き更紗はショックを受けます。
ここまで来ると亮くんは更紗の事本当に好きなのかどうか怪しくなってきますね。
案の定、亮くんのDVはどんどんエスカレートしていくのでした。
DVってニュースとかで良く見るけどやはりエスカレートしていくものなんですかね・・・。
個人的にはDVさえなければ亮くんは結構いい恋人のように思えました。
★ドキドキする場面が多い
夜にカフェの営業をしていると知った更紗はそのカフェ『calico』に通います。
そこで何かを嗅ぎつけた亮くんがやってくる。
この時に文は更紗に気づかないふり(かなり無理がありますが・・・)をして無視を決め込んでいたのでした。
亮くんが「更紗」と名前を呼んでるので気づかないはずがありません。
更紗は亮くんの事よりも、文が平然としていることに傷つくのでした。
このシーンが緊迫感があってドキドキ。
ちなみに『calico』は更紗という意味なので、店の名前に更紗と名付けるという事は文にとっても更紗は特別な存在だという事が分かります。
亮くんのDVがエスカレートしていき、とうとう更紗が逃げ出すシーン。
ここも割とドキドキでした。
ただ、逃げたなら仕事も変えないと。
職場に来るに決まってるじゃんとは思ってしまいました。
「流浪の月」を読んだ感想
読み終わったときに思ったのは、この2人の関係性は確かに的確に表す言葉がないなでした。
登場人物に関してはどの人物もあまり好きではないです。
どれか選べと言われたら人の良い店長でしょうか。
何となく緊迫した場面が多いけど人の良いファミレスの店長が出てくると息抜きキャラというかホッとしました。
ラストはモヤっとした終わり方になってましたが、空想の余地があるのでこういう終わり方は結構好きです。
個人的な予想では更紗は再び誰かを好きになり、文を置いて男と出ていく。
まるで自分の母親のように。
そして一人になった文は本文にも書いてあった通り「ひとりは怖い」と思いながら自分の嗜好を変えることなく一人でひっそり生きていく。
そして二人が再び再会することは二度となかった。
まあ、自分で勝手に想像してみました。
映画化「流浪の月」
広瀬すず×松坂桃李で2022年に映画化されています。
松坂桃李の雰囲気も似合ってますが、松山ケンイチさんとかも良さそうって思いました。
ロリコンというのが気持ち悪いという意見もありますが、レビューはまずまずで私が見た時点では★4.1になってました。
亮役が横浜流星さんだったので(実は結構ファンです)亮くんに感情持っていかれてしまった。
DVさえなければ断然に亮くんが良いです。
どの登場人物も可哀想でしたね。
文がやってるカフェは雰囲気が原作にピッタリでした。
サクッと三行あらすじ(ネタバレ注意)
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小学校の時に大学生の文の家に転がり込んだ更紗。しかし文は幼女誘拐で逮捕される。
15年後に再会し、愛とも友情とも家族とも言えない不思議な関係を築く。
更紗はDVの恋人と別れ、世間に何を言われようと文と暮らす選択をする。
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