小説 現代小説

推しが生活の全てな女子高生の話『推し、燃ゆ』宇佐見りん著

推しが炎上した。
ファンを殴ったらしい。

『推し、燃ゆ』概要

著者:宇佐見りん
第164回の芥川賞受賞作品。

主人公のあかりはアイドルグループ『まざま座』のメンバーである真幸(まさき)に夢中。
生活の全てを真幸に捧げているような女の子。
しかし、その真幸がファンの子を殴って大炎上を起こしてしまう。
推しは自分の背骨。推しの不祥事にあかりの生活にも異変が生じる。

登場人物

あかり

女子高生。姉が一人いて、居酒屋でアルバイトしている。
生活の全ては推しである真幸中心。

真幸(まさき)

5人組のアイドルグループ『まざま座』のメンバー。
ファンを殴って炎上してしまう

成美

あかりの友人。二重に整形している。

ひかり

あかりの姉。しっかり者で成績も良い

幸代さん

あかりのバイト先の人

事件を知ったときのあかりの反応

暴行事件について推しのインタビューを見たときのあかりの反応は以下でした

怒ればいいのか、庇えばいいのか、あるいは感情的な人々を眺めて嘆いていればいいのかわからない。
ただ、わからないなりに、それが鳩尾を圧迫する感覚は鮮やかに把握できた。これからも推し続けることだけが決まっていた。

『推し、燃ゆ』より

芸能人が不祥事を起こした時のファンの反応って様々です。
ファンを辞める人、怒る人、復帰を待ち望む人、冷める人、必死で庇う人などなど
あかりは何ら感情が大きく動くことはなく、淡々とファンでいる事を決意しました。

あかりは推しがファンを殴ったことに違和感を感じるが、私はこのあかりの感情の動きの薄さに違和感を感じてしまいました。
淡々としているのが逆に怖いという感じです。

ファン投票

実在する某アイドルグループと同様にこの本に出てくる『まざま座』にもファン投票があります。
気にしたことなかったですが、これってトップ10くらいに入った子はいいけど、最下位に近い子たちは残酷な現実を突きつけられて悲惨ですよね。
この本の中では5人グループでファン投票をやるから余計にみじめさが際立ってしまう。

ジャニーズファンなどは推しが同じだと対立することがあると噂に聞いたけど、この本に出てくるファンは同じ推しを応援する同士として結託しています。

この辺りのやり取りが妙に生々しくてリアルでした。

あかりの母親と姉

私は読んでいて母親にも少し違和感を感じていました。
子供の頃のあかりとひかりと母親が三人で一緒にお風呂に入るシーンからです。

その事はあかりも子供心に感じていて、深くは書かれていなかったけど、あかりは子供の頃から母親から愛情を受けておらず、その辺りも人格形成に大きく影響したのかなと感じました。

案の定、妹のあかりについて謝るひかりに謝る母親と、諦めムードの姉。
この二人の会話を偶然耳にしても、淡々としているあかりの無機質な感じが気味悪いです。

その後に爪を切るのですが、そのシーンでやはり普通ではないと感じます。

ただ登場シーンが少ないけれど、この母親も少しおかしいんですよね。

生活は全て推し中心

あかりは生活の全てを推しに捧げます。

CDを50枚購入するのは当たり前で、推しの一挙手一投足を自分なりに解釈してブログに残す。
推しが舞台に出るとその時代背景を調べたり、地図を作ったり、相関図を書いたりする。
中古で推しのグッズが売っているとしのびなくなり、なるべく購入するようにする。
推し活に関すること以外ではお金を遣わない

ここまで読んでぼんやりと思い出したのがホストにハマった女の人のブログです。
お店ではそのホストの売上を上げてナンバー入りさせるために100万円とか使うのに、自分自身は100円均一で購入したマニキュアで我慢して、
旅行もレストランも行かず、家でコンビニ弁当の毎日。
極端ですが、推しが全てもこんな感じでしょうか。

身内ならともかく正直ここまで他人の為に頑張るのが私にはよく分からない。
しかもアイドルなんてこちらは相手を熟知していても、あちら側はファンの顔も名前も知らない状況なわけなので余計理解できない。

〈推しの結婚式に何食わぬ顔して参列してご祝儀百万円払って颯爽と去りたい〉

『推し、燃ゆ』より

これはあかりの言葉ではないのですが結婚疑惑が持ち上がった時のネットでのファンのつぶやきです。
何かよく分からないというのが私の感想です。

そしてこれはあかりの言葉

推しのいない人生は余生

『推し、燃ゆ』より

これが全てかと。

『推し、燃ゆ』を読んだ感想

表紙が可愛くてタイトルのポップな感じから明るい話かと思ったら、社会不適合者で恐らく何らかの発達障害を持つ女の子の話でした。

これを読み終わって真っ先に浮かんだのは『コンビニ人間』
コンビニの小さな箱の中が全てであり、毎日のルーティンワークに少しの狂いも許せない主人公。
そしてコンビニ以外の事には感情をほとんど動かすことがない。

普通の定義が難しいですが、どちらもごく普通の人から見ると少し異質。

推しというものがいなかった私は理解があまり出来なかったけど、同じファン同士で推しの話で盛り上がったり、好きなアイドルの笑顔を見ると嬉しかったりという部分は共感できるし、正直一生懸命応援できる何かがあるって羨ましい。
ただしそこまで。

推しは私の背骨という描写があったが、綿棒を骨と例えて拾うところは少しゾッとしました。
後味はあまりよくないけど、インパクトのある作品でした。

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