第155回芥川龍之介賞を受賞
普通とは何か?現代の実存を軽やかに問う
「コンビニ人間」の概要
【著者:村田紗耶香】
主人公の古倉恵子は、大学在学中にコンビニでアルバイトを始める。
しかし、卒業後も就職もせず彼氏も作らず18年間もコンビニでアルバイトを続ける。
ある日、コンビニに婚活目的で新人のアルバイト白羽が入ってきて、判で押されたような毎日を送っていた恵子は、白羽と奇妙な関係になっていく。
著者:村田紗耶香
千葉県生まれ。2003年「授乳」でデビューする。
「授乳」群像新人文学賞優秀作、「ギンイロノウタ」野間文芸新人賞受賞。
「しろいろの街の、その骨の体温の」三島由紀夫賞受賞。
「コンビニ人間」第155回芥川龍之介賞受賞。
執筆業の傍ら、週に三日コンビニでアルバイトをしていたという異色の小説家。
インタビューでは商品の陳列作業が好きと答えている。
テーマや要素
「コンビニ人間」には下記のような要素が含まれています。
- 「普通」とは一体なんなのか?
- 組織に組み込まれ完璧に業務をこなす人間
- 他人に合わせる事の楽さ
- 枠にはみ出ると生きづらい
- フリーター人生
- 30代の女性が主人公
- コンビニという空間
主人公は一見普通だけど普通じゃない。でも普通って一体なに?
登場人物
古倉恵子
主人公。コンビニ店員。
父母を悲しませまいと自ら動いたり、行動することを辞める。
大学の時にコンビニでバイトを始めて、36歳でまだコンビニで働いている。
他人の喋り方をトレースする癖がある。
<コンビニ仲間>
白羽
35歳。婚活の為にコンビニで働きに来たアルバイト。
ちょっとコンビニを馬鹿にしていてよくサボり、遅刻する。
泉さん
主人公より一つ年上の主婦。バイトリーダー。
性格はキツイがテキパキしている。
菅原さん
24歳。アルバイト。バンドのボーカルをやっている。
ぽっちゃりしていて愛想が良い。
<友人・身内>
ミホ
同窓会で再会し友人となる。
結婚している。コンビニ以外の世界との唯一の接点となる
古倉麻美
主人公の二つ年下の妹。
姉を慕っている。結婚していて、夫と子供がいる。姉が普通じゃないと感じていて心配している。
「コンビニ人間」の簡単なあらすじ
主人公の恵子は大学時代に、オープンスタッフとしてコンビニのアルバイトを始める。
周りの心配も気にせず、そのまま就職もせずにずっと18年間コンビニのアルバイトとして判で押したような生活を送る。
ある日、コンビニに婚活が目的という白羽というアルバイトが入ってくる。
しかし、やる気がなく、サボったり、遅刻を繰り返す白羽。
そんな白羽に恵子は徐々に関わっていき、恵子の決まりきった日常に変化が出来てしまう。
周りはそんな二人の事を異端だと、枠からはみ出した人間として見るのだった。
「コンビニ人間」の面白かった点
薄いので一気読みしました。すごく面白かったんですが特に面白かった点は下記です。
恵子が人間っぽい部分
表向きは周りに合わせようとする恵子は18年間もアルバイト生活を続けている理由として
親の介護があるから正社員にならない。または、身体が弱いからずっとバイトなのだと言い訳します。
ここは意外と人間っぽいし、ちょっと気持ち分かります。
白羽の登場
白羽のコンビニで働く理由が婚活と分かり、主人公が驚愕しますが読んでる私も驚愕しました。
コンビニで婚活って発想はなかったです。
恵子の周りの反応
内心は冷静で冷めきっている恵子なのに周りが勝手に決めつけ、勝手に祝っている様子が確かにおかしい。
身内の反応
恵子と白羽の身内の対応。この反応は読者にとっても理解しやすいです。
そしてその反応にも冷ややかに対応する二人。この対比も面白い
恵子の性格がよく分かる部分
恵子の奇妙な性格がよくわかる部分。
ただ完璧なマニュアルがあって、「店員」になることはできてもマニュアルの外ではどうすれば普通の人間になれるのか。やはり、さっぱり分からないままなのだった。
引用:「コンビニ人間」より
マニュアルは完璧にこなせても、普通じゃない恵子には普通というのが分からないのです。
しかし、普通っていったい何なんでしょうと逆に考えさせれれます。
まるで私みたいだ。人間っぽい言葉を発しているけれど何も喋っていない
引用:「コンビニ人間」より
トレースの為に人を観察するのが得意な恵子ですが意外にも自分の事も客観的に見ている感じが取れます。
「コンビニ人間」を読んだ感想
最初の8ページくらいにある子ども時代の公園のシーンが面白くてぐいぐい引き込まれました。
とにかく主人公の恵子は周りをよく観察しています。
そして自分の事も客観的に見れている部分もあるのが面白い。
意外だったのは同窓会に出席したこと。タイプ的にそういうのに参加しなさそうなのに。
18歳から36歳。いわば女性として、いや男性でも一番輝いていてキラキラしている時期をコンビニに全て捧げています。
多少の時給は上がるだろうけど昇進するわけでもなく延々とずっと同じ作業。自分には耐えられそうにもありません。
でも主人公にはこれが心地いいのです。分からなくもないけれど・・・。
著者自身もコンビニで働いているそうで、店の周りを歩いて情報収集するという箇所がありますが、これは著者自身のリアルな描写でした。
白羽からボロカスに悪態つかれても本心から何とも思っていない主人公はもはやサイボーグのようでした。