サスペンス小説 小説

自分が変わっていく恐怖「変身」 東野圭吾(著)

「今の僕は、以前の僕ではない一体誰なのだ?」

「変身」概要

地味で平凡だが優しい心の持ち主の主人公・成瀬純一。

ある日、不動産屋で事故に巻き込まれてしまい、病院に運ばれた純一は世界で初めての脳移植手術を受ける。

手術後、体の方は無事に回復していくのだが、脳を他人が支配していき、性格が変わっていくのを自分で止められない純一。

平凡な男の過酷な運命と悲劇が描かれた作品。

著者:東野圭吾

大阪出身。
大学卒業後、エンジニアとして働きながら『放課後』で第31回江戸川乱歩賞を受賞してデビューする。
99年『秘密』で第52回日本推理作家協会賞、2006年『容疑者Xの献身』で第134回直木賞、第6回本格ミステリ大賞を受賞。
他にも吉川英治文学新人賞、本屋大賞、中央公論文芸賞など数々の賞を受賞している。

登場人物

成瀬純一

24歳。産業機器メーカーのサービス工場勤務
休日は絵を描いている大人しい好青年。真面目な性格で子供の頃から気が弱い。学生時代に両親を亡くす。
不動産屋に行った時に子供を庇い自分が銃で撃たれる。

葉村恵

純一の彼女。純一がよく行く画材ショップの店員
純一の描いた花の絵を見せて欲しいといい、そこからモデルになる。デザイナーになるのが夢だった。
純一の変化にいち早く気付く。

堂元博士

東和大学附属病院の医者
純一の脳移植手術をする。

橘直子

堂元博士の助手
入院中の純一の世話係となる。

京極瞬介

不動産屋で銃を撃った犯人
不動産屋に恨みがあった。少し可哀想な生い立ち。

京極亮子

瞬介の妹
似顔絵かきをやっている。

嵯峨道彦

弁護士
妻と娘がいる。娘の命の恩人である純一に恩を感じている。

関谷時雄

学生
交通事故に遭うが臓器提供者として登録していたので純一のドナーとなる。

臼井悠紀夫

大学生。純一の隣に住んでいる。
ゲームばかりしていて友人を呼んでバカ騒ぎ。親の仕送りで暮らしている。

事故に遭う前の成瀬純一の性格

地味で目立たない上に、自分に自信がなくガラスのような精神の持ち主として描かれています。

少し親しくしてもらっただけで、のぼせて相手までが自分に愛情を抱いていると錯覚してしまうのだ。それが単なる好意、あるいは社交辞令だと気づくたびに自己嫌悪に陥り、傷ついてきたのだ。

『変身』より

クラスに何人かいそうなタイプです。良い人なんだけど、イマイチ報われないイメージですね。

映画ではイケメン俳優の玉木宏さんが演じてましたが、気の弱そうな部分を上手く表現されていました。

相手役は蒼井優さんです。

脳移植後の純一の心の変化

小説では本当に徐々に純一が変化していき、本人はそのことを恐怖に感じていく過程が丁寧に描かれています。

①絵のタッチが変わっていく

ずっと趣味で絵をかいていた純一は手術後も絵を描きます。

しかし、絵のタッチが以前と変わっていきます。そのことに専門家の医師たちは気づいてました。

本人も徐々に気づきます。そして以前は絵を描くことで心が落ち着いていたのに、絵を描くことでイライラしている自分に気づきます。

②自分の好みではない女性に惹かれていく

事故に遭うまでの純一の好みは恵のような少し田舎臭い素朴な女性でした。

それなのに、術後は病院で自分の世話をしてくれた橘さんに魅力を感じてしまいます。

小説では橘さんは大人の女性で、洗練された美人となっています。

清純そうな恵とは大分タイプが違っていますね。

③周りの人間に攻撃的になる

それまでの純一は大勢の一人でしかありませんでした。

波風を立てず、手柄を立てず、失敗もせず。どこにでもいる人でした。

復帰してからは、上司に意見する、気に入らない同僚と喧嘩、人が変わってしまった純一に周りも戸惑います。

④恵に対する想い

恵に対する想いは心底では変わっていないと思います。

ただ、事あるごとに別の脳に支配されていきます。

一番、はっきりと表れたのが「恵。この娘にそばかすがなければいいのに」との想いが純一の頭をかすった事でした。

⑤無関心だったものに興味を示す

純一は絵が好きでしたが、音楽には人並みの興味しかありませんでした。

それなのに、ピアノの音に以上に関心を寄せ、演奏の上手い下手まで聞き分けることが出来るのでした。

⑥幼女に嫉妬する

弁護士の娘で小さな女の子がピアノを弾いています。

お世辞にも上手とはいいがたい。

以前の純一ならその光景を微笑ましく思って眺めたでしょう。

しかし、純一は下手なくせに立派なピアノを親からあてがわれ、当然のようにこの幸福を享受している子供に嫉妬するのです。

以下のような部分が詳細に描かれていて、純一の心の変化は読者に不気味な感情を抱かせます。

『変身』を読んだ感想

『脳移植』という重いテーマを取り扱っている医療もののヒューマンラブストーリーという感じです。

映画も観ましたが、映画と違うのは恵の扱いでしょうか。ドラマ化もされてますが、こちらはまだ見ていません。

小説の中の手術後の純一の方が恵に対して酷い扱いをします。

その分、恵を助けるときの純一が余計に際立ってて、残った元々の脳が純一の暴走を決して許さなかった感じが強く出てました。

そして純一を囲む医療陣営たちの姑息さがすごいです。気持ちわからなくもないけど、まあ酷いですよね。

どうしても上映時間に制限があるので仕方ないですが、小説のじわじわ変化していく様子の方がより不気味です。

何より脳は生きているのに身体は亡くなったドナーって死んだことになるんでしょうか?

この小説を読むと、ここまでが生きてる事で、これから先は死んだ事というラインが分からなくなってきました。

医療技術の発達は喜ばしい事ですが、色々と考えさせられる小説でした。

ラストは悲しくもあり、少し感動もしました。

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