僕は夜になるとばけものに変身する。
ある日、夜の学校でクラスでいじめられている少女と出会う
「よるのばけもの」概要
著者:住野よる
夜になるとばけものとなる中学生の僕は、ある日忘れ物を取りに夜の教室に行く。
気の弱い僕はばけものになってからも、人を驚かさないよう、人にぶつからないよう気を付けている。
人間だと時間が掛かるが、ばけものの僕は一瞬で学校までたどり着ける。
そこでクラスでは浮いた存在でいじめられている矢野さつきとバッタリ出会ってしまう。
その日から僕と矢野さんの奇妙な関係が始まったのだった。
登場人物
僕
安達。あだ名はアッチー。中学3年生。
気が弱く、みんなに同調する傾向にある。夜になると目が8つ、足が6つのばけものに変身する。
矢野さつき
いじめられているクラスメイト。喋り方が特徴的。
とろくて空気が読めないが、おしゃべりでいつもニタニタ笑っている。
笠井
僕の友人。陽気で能天気な性格。
緑川双葉
無口でズレているのだが、それが許されるタイプ。美人。
以前、矢野に窓から本を捨てられている。
元田
野球部で性格が悪い。矢野いじめのリーダー格。
井口
心優しい女子で矢野がいじめられているのを気にしている。
工藤
隣の席の女子。1年の時から一緒のクラス
テーマや要素
「よるのばけもの」は以下のような要素が含まれています。
・青春小説
・いじめ問題
・集団心理
・友情
・本当の強さ
・微妙な人間関係
学校でのシーンが多く、子供ならではの人間関係の敏感さが感じられる
おススメのポイント
少しファンタジーの入った独特な雰囲気の小説です
なぜ夜の教室で会うのか?
この本は2度読みました。
ばけものの僕は宿題を忘れてそれを取りに教室にやってきます。
しかし最初、矢野さんが何のために夜の教室に来ているのか分かりませんでした。
矢野さんは教室の休み時間を感じたかったからです。
昼の学校ではいじめられている矢野さんは
休み時間はからかわれたり、無視されたり、他教室への移動中に何か物を落としても誰も拾ってくれません。
でも夜の教室だと誰にも邪魔される事なく休み時間を満喫する事ができます。
矢野さんは携帯のアラーム音をチャイムの音にして、チャイムが鳴るまで夜休みを満喫するのでした。
僕が教室に行く理由は矢野さんが気になるのもあるのかもしれないけど
書いてある通り、誰かにばけものになれる自分を知ってもらい自慢したかったから。
そしてこの日から奇妙な2人の時間が始まります。
集団心理の怖さ
この教室では矢野さんをいじめることが正義になります。
僕もこう言っています。
俺達は、大人たちが思うよりもずっと残酷な気持ちをもって生きている。
『よるのばけもの』より
大人には分からないクラスという村が出来上がっていて
そこからはじかれると自分も村八分に遭ってしまいます。
矢野さんが落としたものをうっかりでも拾ってしまったら
その子はクラスにとって敵となる。
矢野さんはみんなに「おはよう」と挨拶をしますが
挨拶を返したらクラスにとっては敵。
同調圧力に従わない者ははじかれてしまうという怖さ。
大人には分からない(大人でもあるかな・・・)完璧な村社会が出来上がっているのです。
良心なんて、ここではなんの意味もない。
『よるのばけもの』より
そこから抜け出せずにもがいていたから
主人公はばけものになったのかなと思います。
人間とばけもの
昼間の主人公はごく普通の中学生の男の子です。
友達もいてみんなと馴染んでおり
ただ、積極的に矢野さんいじめに加担するわけでもなく
いわば見て見ぬふりをしています。
ただ自分が大切なので矢野さんを助ける事はしません。
しかし、夜になると矢野さんと仲良く話し、同じ秘密を共有します。
主人公の卑怯な部分
昼の彼女に謝ることは出来ない。だからせめて夜に。化け物の僕ならそれくらいのこと、出来るから。
『よるのばけもの』より
仕方がないとはいえ、かなり情けない感じですね。
昼の僕は外見は人間でも心はばけもので
夜の僕は外見はばけものでも、心は人間で
この事に心の奥底では主人公の僕は苦しんでいたのだと思います。
ある日、矢野さんの大事なものを僕はわざと踏みつけて壊します。
矢野さんが拾いに来ても知らん顔で見ています。これが正解なのだと自分に無理やり言い聞かせて。
主人公はばけものの正体が自分の心だと知ります
僕が、矢野さんを積極的にいじめてる奴らよりよっぽどひどい生き物だってことだ。自分より弱いものを狩って生き延びようとする獣の方がよっぽど透明だ。
『よるのばけもの』より
同じようにばけものにはなっていないけど
緑川さんや笠井くん、井口さんも似たような気持ちを少し持っていたと思います。
主人公と工藤さん
工藤さんは地味な登場人物であまり主要な人物ではないですが
主人公と中学1年からずっと同じクラスで、席が隣です。
矢野さんに対しては見て見ぬふりよりも若干加害者よりかなくらいの位置。
ただラストに矢野さんに声を掛けた主人公に対し決別の意思を示したと主人公の僕は思っています。
確かに矢野さんに声を掛けた事で敵とみなしたのかもしれませんが
工藤さんはきっと僕の事を好きで、僕が矢野さんの味方をしたことに嫉妬したのかなと思いました。
「よるのばけもの」を読んだ感想
とにかく矢野さんは強いなあと思いました。
緑川さんや井口さんを助けたのは間違いなく矢野さんで
しかも誰も返事もしてくれないのに毎朝、誰かれ構わず話しかけるって
なかなか出来ないんじゃないかな。
それに矢野さんが助けを求めてきたらどうしようと怖がってきた主人公と
決して僕に助けを求めない矢野さん。
やっぱり矢野さんは僕より強いです。
またばけものにならないと矢野さんに親切に出来ない僕のジレンマみたいなのも良かったです。
課題はたくさん残ってはいても、僕がぐっすり眠れるようになったのは良かったです。
心の中も人間でいれるようになった僕は
ばけものになる必要がなくなったって事なんだと思います。
本筋とは関係ないですが、かなり共感した部分があって
ばけものになった僕が閉店後の百貨店で冒険してみたいと考える場面。
これと同じこと子供の頃に考えた事あります。恐らく作者の住野さんも、そう思った事があったのかなって思いました。
後はここ
雨の日、というのは不思議と、皆のテンションがちょっとずつ高いような気がする。
雨に濡れない為に窓が閉め切られているせいで、教室に秘密基地的な感覚が生まれ、
いつも以上に一体感が生まれるからかもしれない。
これもすごくわかります。
私は雨の日に家に閉じこもっているのが好きなのですが秘密基地の感覚でちょっと楽しいのかもしれない。
住野よるさんの作品はまだ二冊しか読んでいませんが
取り敢えず読破しようと思っています。