小説 現代小説

少女たちの夏「TUGUMI」吉本ばなな

二度とかえらない少女たちの輝かしい季節

「TUGUMI」概要

【著者:吉本ばなな】

第2回山本周五郎賞受賞作品

大学1年生のまりあは夏休みに従妹のつぐみの家に行く。
つぐみの家は小さな田舎町で旅館をやっており、つぐみ以外には父、母、姉の4人家族。
そんなまりあとつぐみのひと夏の少し切ない物語。

テーマや要素

「TUGUMI」には下記のような要素が含まれています。

  • 大学生
  • 夏休み
  • 従妹同士
  • わがままで病弱な美少女
  • 少し切ない
  • 海辺の田舎町

常に不機嫌な態度でわがまま放題のつぐみに周りが振り回されていく

登場人物

つぐみ

田舎の旅館の次女
体が病弱で甘やかされて育つ。とてもワガママだが美少女。

白河まりあ

東京の大学生でつぐみより1つ上の従妹
少女時代に母親とともにつぐみの家で過ごすが東京へ引っ越す

正おじさん、政子おばさん

つぐみの両親。旅館業を営んでいる。

陽子ちゃん

つぐみの2つ年上の姉
ケーキ屋でバイトしている。つぐみのような華やかさはないが美人

武内恭一

新しくできるホテルの支配人の息子
さわやかな外見でつぐみと付き合う。

つぐみとまりあの関係

つぐみとまりあは母親同士が姉妹です。
つぐみの母がまりあの母の妹になります。

(つぐみの家族)

父親の正は旅館をやっており、そこに母親の政子が嫁いできます。
政子おばさんは常につぐみの体を心配しており、姉の陽子は穏やかな性格でつぐみのワガママを包み込むような優しい心の持ち主。
つぐみとは正反対の性格に描かれています。

(まりあの家族)

まりあの父は前妻との離婚にとても苦労しています。
まりあの母親とは不倫関係にあり、離婚後にまりあとまりあの母を東京に呼び寄せます。
サラリーマンでマイホームパパ、日曜は家族と外食や日曜大工を好む。
理想のお義父さんですね。

母親は東京に行くまではつぐみの旅館で働いており、
子供の頃のつぐみとまりあは姉妹のように暮らしていました。

つぐみの数々のイタズラ

つぐみは病弱な為、町から出る事が出来ません。
とても狭い小さな世界で生きています。
そんなつぐみは子供の頃から口が悪く、イタズラ好きです。

以下のようなイタズラをしていました。

  • なめくじ、カエル、カニ7などを黒魔術ように飼い、客室に忍び込ませる
  • 亡くなった祖父の筆跡を真似て、おじいちゃんっ子だったまりあを騙す
  • 犬をいじめて噛まれる
  • クラスメイトと大喧嘩
  • 復讐のために落とし穴を掘る

美少女とは程遠いイメージです。

口が悪く、ずる賢いのですが身内にはワガママですが、外ヅラはいいので質が悪いです。

登場人物たちの性格

主要人物はつぐみ以外はみんな優しい人たちばかりです。

(つぐみ)

体調を悪くすると学校に行けなくなり、一日のほとんどを自宅のベッドの上で過ごします。
ただ、つぐみは痛みや苦しみを訴えることをせず、ひとりでずっと寝込みます。
この事からもかなりの負けず嫌いという事が分かります。

彼女は子供の頃から全く変わらずに、ひとりきりの思考の中で生きていたのだ。

「TUGUMI」より

つぐみが孤独だったことが伺えます。

(陽子ちゃん)

つぐみのお姉さんですが、母親などは病弱なつぐみに掛かりっきりで、陽子は放置された事も多々あったでしょう。
しかし恨み言は言わず、つぐみのワガママも全て受け入れるような性格の女性です。

(まりあ)

つぐみの周りは病弱なつぐみをガラス細工のように扱います。
しかし、まりあはあまりつぐみを特別扱いしません。
これはまりあの優しさであり強さでもあると思います。

つぐみも普通に扱われることが嬉しくもあり、心地良かったのではないでしょうか。

その気になれば誰にでも会えて、地球上のどこへでも行けるはずの私が、ちっぽけな街から動けないはずのつぐみに忘れ去られてしまうような気がする。

「TUGUMI」より

まりあにとって、つぐみが特別な存在であることが分かります。

映画化

邦画見るならU-NEXT

かなり前ですが1990年に牧瀬里穂さんと真田広之さんで映画化されています。
まりあ役は中嶋朋子さん。

海辺の田舎町が舞台なので映像化したら綺麗でしょうね。
サブスク検索しましたが、どこも配信していないので、見るならレンタルしかなさそうです。

「TUGUMI」の感想

吉本ばななさんの小説好きです。初めて読んだのは「悲しい予感」でした。

ただエッセイはあまり好きではありません。

ちょっとワガママで自己中な人のような印象を受けてしまいました。

この「つぐみ」は全編夏の雰囲気。

しかも若いころの、切なくて淡いひと夏という感じです。

田舎の旅館で育ち、次女で美人で病弱で・・・ここまで来ると、少しわがままだけど心優しい、それこそハイジのクララのようなイメージです。

しかし主人公のつぐみは口がすごく悪いし、負けず嫌い。

まりあに電話するときも開口一番「よお、ブス」です。

病弱な美少女とはほど遠いキャラクターですが、それがすごく面白い。

読んでるうちにところどころ切なくなってきます。

最後のつぐみの手紙の章は涙ぐみながら読んでしまいました。

田舎町の夏の風景描写もステキ。扇風機に蚊取り線香なんかが似合いそうな、そんな風景です。

つぐみとまりあの関係については、いとこ同士なわけですが、この関係がうらやましくなってくる。

つぐみの事を誰よりも理解してたのは、お母さんでも陽子ちゃんでもなくまりあだったと思います。

PickUp

-小説, 現代小説