小説 現代小説

出版業界を描いた「騙し絵の牙」塩田武士

斜陽の一途を辿る出版界で牙を剥いた男が

業界全体にメスを入れる!

小説の概要

主人公は大手出版社で働く中堅サラリーマン速水輝也。

仕事も出来、弁も立ち、後輩や作家への気配りも出来る速水だったが、上司の相沢から雑誌の廃刊の可能性を言われてしまう。

何とか存続させたい速水はたくさんの人と会い、企画やアイディアを実現しようと奮闘するのだが、その一方で、冷たくあしらわれたり、家族の問題が持ち上がったり、同期に出し抜かれたりなど、いろんな出来事を経験していく。

出版業界の現状が切ないまでにリアルに描かれている。

【著者:塩田武士】

兵庫県出身。

神戸新聞社に勤めているときに『盤上のアルファ』で第5回小説現代長編新人賞を受賞。同作で作家デビューする。

2016年にグリコ森永事件を題材とした『罪の声』で第7回山田風太郎賞を受賞。

『罪の声』では「このミステリーがすごい!」で7位を獲得している。

また2018年に『歪んだ波紋』で第40回吉川英治文学新人賞を受賞。

『罪の声』は小栗旬主演、『騙し絵の牙』は大泉洋主演で映画化されている。

テーマや要素

小説『騙し絵の牙』には以下のような要素が含まれています。

  • 中堅サラリーマン
  • 人たらしな主人公
  • 大泉洋さんで当て書き
  • 出版業界の裏側
  • 雑誌が廃刊の危機
  • 作家と編集者
  • 読みやすい

このような要素が気になる方におススメの本です。

登場人物

登場人物は結構多く、書いてある以外にも登場します。

ー薫風社関係ー

しき

仕事関係がほとんどです。

速水輝也

44歳。大手出版社薫風社勤務。雑誌「トリニティ」の編集長。元新聞記者。家族は妻と娘の3人暮らし。

相沢徳郎

編集局長で速水の上司。1987年に入社。

小山内甫

速水と同期で入社20年目。

秋村光一

速水と同期。経済紙『アップターン』編集長。仕事が出来る

三島雄二

速水の元部下。元コミック誌編集部員。現在はエージェント業をやっている

高野恵

30歳。『トリニティ』編集部員。一番若い。元文芸誌を担当していた。

ー作家たちー

二階堂大作

デビュー40年の大物ベテラン作家

霧島哲矢

中堅作家。『トリニティ』に短編を連載している。速水にはデビューから世話になっている。

永島咲

女優でエッセイを書いている

久谷ありさ

速水と同年代の恋愛小説家。20~40代の女性に人気がある。

高杉裕也

若手作家。3年前に新人賞でデビューした。速水が目をかけている。

ー速水の家族ー

速水早紀子

44歳。速水の妻。結婚13年目。小学校5年生になる美紀という娘がいる。

主人公のキャラ

まんま大泉洋さんでした。

ちわ

大泉洋さんの当て書きなので、主人公のセリフや行動などシーンの全てが大泉洋さんが動く映像として脳内に浮かんできました。

セリフのやり取りにいちいちユーモアがあって、いかにも大泉さんが言いそうなセリフが多かったです。

「滅相もありません!そもそも二階堂大作で落ちない経費は我が社にはございません」

小説『騙し絵の牙』より

このセリフとかハケンの品格のくるくるパーマ思い出してしまいました。

ユーモアと哀愁がうまくマッチされていたキャラでした。

本に対する思い

速水をはじめ登場人物たちの本に対する思いも良かったです。

私も本が好きですが、登場人物も本を通して盛り上がるシーンとか分かる分かると頷きながら読んでしまった。

出版業界の切実な状況なども詳しく書かれていましたね。電子書籍がどんどん主流になっていって・・・。図書館で借りたり、古本屋で購入する人も多い。

私の近くでも書店がいくつも閉店していきました。私も電子書籍半分、紙の書籍半分くらいとなってきました。

しかも紙の本も新刊以外はブックオフで購入することも多いです。なんか申し訳ない気分になってしまいました。

※引用
こんな世の中になるとは考えもしなかった。いつの時代も、世代に関係なく鞄の中には本があるという状態が当たり前だと思っていた。

小説『騙し絵の牙』より

リアルな心の声という感じで胸が締め付けられるようです。

後は、あまり知らなかったのですがカリスマ書店員ってすごい影響力があるんですね。

書店員さんが選ぶ本屋大賞などは知っていますが、カリスマ店員の活躍は目覚ましく、連載を持っていたり、テレビ出演したりなど華々しいんそうです。

この本にもカリスマ店員が少しだけですが登場します。そして、信頼の厚い店員の薦める本は、売り上げが伸びると書かれています。

作家の大変さ

本には二階堂大作という大物作家が登場するのですが、この作家が現役第一線を走り続けるためにやっている処世術が凄い。

特にこれと思った後輩たちを酒場に連れていき、新鮮な情報を常に仕入れている。これをベテランの大物作家がやっているのは素直にすごいなあと思いました。

編集者の苦労もそうですが、作家の苦労も当然ですが並大抵ではないですね。

いくら考えてもどこかで聞いたような話しか思い浮かばないという絶望-何を書いても上滑りする感覚。もう青春小説に後戻りできないという焦燥。原稿に向き合う時間が長いほど底なし沼に足を取られるように感じられた

小説『騙し絵の牙』より

プレッシャーとの闘い。また本の中の作家は軽々しい小説しか売れないとの不満、売れなくなったら収入ゼロという厳しい現実とも向き合わなければならない。

想像を超えた大変な仕事ですね。

「騙し絵の牙」を読んだ感想

しき

哀愁漂う作品でした!

出版業界の未来、中間管理職の大変さ、作家の苦悩、家族の悩みなど。

結構暗いテーマですが、それを速水の軽快なキャラクターで融解していました。

登場人物が多いので主要な人だけ把握するようにしてました。

出版社関係のキャラが良く似ていてあんまり見分けがつかなかったです。

好きなキャラクターはやはり二階堂大作かな。

私は映像はまだ見ていないのですが、暇があったら見てみたいです。

気になったのは速水の奥さん大丈夫なのかって事と、ラストの小山内の行動がちょっと不可解?

この本読んだ後は本屋に行きたくなりました。

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